高血圧とは、一時的なものではなく、常に血圧が高い状態にあることをいいます。私たちの体は、常に心臓から血液が送り出され、循環して心臓に戻る仕組みが備わっています。そのポンプの力が血圧で、この血圧は常に変動しています。血圧は自律神経によってコントロールされているため、緊張やストレスで高くなり、また寝ている時やリラックスした状態では下がります。
しかし食生活や生活の乱れから、常に血圧が高くなると、血管に負担がかかり、動脈硬化といった恐ろしい状態を招くのです。今回はこの高血圧を改善するためにベストな食事とされている「DASH食」について、詳しくご紹介します。
「DASH食」とは?
高血圧予防のための食事法である、Dietary Approaches to Stop Hypertensionの、頭文字を取って名付けられました。アメリカで調査や研究が行われ、推奨されている食事の方法ですが、洋食が中心となりつつある日本人は、高カロリー、高脂肪になりがちな食事環境がアメリカ人と似通っていますし、塩の摂取量が多い傾向にあるため、減塩と合わせてこのDASH食で食事療法を行うことで、血圧を下げる効果があると考えられています。
食事療法というと、食べてはいけない、飲んではいけない、といった禁止項目ばかりが頭に浮かんでしまいますが、DASH食では決まった栄養素や摂取する時の比率などではなく、食品の組み合わせを改善します。つまり、体に良い食品を増やしながら、体によくない食品を減らしていくという方法です。DASH食が発表されたのは1987年ですが、2010年に新ルールに基づいた新DASH食が発表され、体内の塩分を排出できる食事が提案されています。
新DASH食のルール
・摂取は1日6g未満の減塩
・ミネラルのカリウム、カルシウム、マグネシウムを摂取すると共に、食物繊維を摂取する
・糖質を減らす
DASH食では摂取する総カロリーに違いはありませんが、摂取する食品を変えていきながら、血圧をコントロールしていきます。ただしDASH食は高血圧症や特定の疾患がない人には有効とされていますが、腎機能が悪い人や糖尿病、その他合併症がある場合にはおすすめできません。これらの病気の方にはまた別の食事療法がありますので、主治医に相談し、管理栄養士の指導を受けるようにしましょう。
DASH食で摂るべき栄養素
DASH食で積極的に摂るべき栄養素には、以下のものがあります。
カリウム
ミネラルの一種であるカリウムには、細胞の浸透圧の調整をおこなう働きがありますが、特にナトリウムを排出する働きがあります。ナトリウムとカリウムは、互いに協力し合って浸透圧の調整をしていますが、余分なナトリウムをカリウムが排出することで、血圧を抑え、さらに腎臓にたまる老廃物の排出を促すためにも必要な栄養素です。不足すると高血圧の原因となるほか、むくみや筋肉の痙攣、倦怠感や食欲が低下することにもつながります。
カルシウム
カルシウムは骨や歯を作るミネラルですが、血液中や細胞にも存在しており、体内の浸透圧の調整や、血圧が上昇することを防ぐ働きもあります。不足すると骨に含まれるカルシウムが溶かされ、体中にはカルシウムが足りない状態にあるにもかかわらず、細胞内にはカルシウムが増えてしまうというカルシウムパラドックスという現象が起きます。カルシウムのバランスが崩れることで、カルシウムが血管にたまって動脈硬化や高血圧をひきおこしてしまいます。
マグネシウム
マグネシウムは体の中でおこなわれている、代謝や合成に関わるミネラルです。血液の循環の維持や、血圧の調整、さらにカルシウムと共に、骨や歯の生成にも関わっています。マグネシウムには筋肉を収縮させ、血栓ができるのを防ぐ働きがあるため、血圧が上昇することを防ぐ働きもあります。
さらに悪玉コレステロールを細胞が取り込んで分解させるよう働きかけることで、血液中の悪玉コレステロールを減らす働きもしています。カルシウム以上に不足しがちなマグネシウムが体内で不足すると、血行が悪くなり、記憶力の低下や筋肉の痙攣、倦怠感などが起きます。さらに不足した状態が長く続くと、不眠や頭痛、女性は無月経などが起きるほか、高血圧や脳卒中といった生活習慣病のリスクも高くなります。
食物繊維
食物繊維は、人の体の中にある消化酵素で分解されることのない存在で、水に溶ける水溶性の食物繊維と水に溶けない不溶性の食物繊維とがあります。消化されず、それ自体は栄養とはなりません。ただし健康維持のためには必要な存在であることから、第6の栄養素とされているのです。
働きとしては、水溶性食物繊維は、水を含んでゼリーのように固まることで、栄養素の吸収を緩やかにし、コレステロールを吸着して排出するほか、ナトリウムの排出にも関わっています。
一方の不溶性食物繊維ですが、こちらは水分を吸収して便のかさを増やす働きがあります。便を増やすことで大腸が刺激されるため、便の出がスムーズになり、さらに有害物質を吸着して排出する働きもあります。
そして双方ともに大腸内にいる細菌のエサとなることで、腸内環境を整える働きもあります。
不足すると腸内環境が悪化し、便秘などになりやすくなります。また膨らむことで満腹感を得られますし、しっかり噛むことで胃の消化を促進するため、積極的に摂取する必要があります。
DASH食の進め方
今の食事を見直し、徐々に必要な栄養素を含む食品を増やし、逆に体には良くない食品を減らしていくという方法なので、すぐに実行することができます。
増やすべき食べ物
・野菜と果物 甘い果物は糖分が多いので注意します。野菜は色の濃いものの方が栄養価が高いのでおすすめです。
・乳製品 牛乳やヨーグルトなど。低脂肪のものを選びましょう。
・魚介類 青魚がおすすめ。煮魚よりも焼き魚にします。
・大豆製品 たんぱく質が豊富です。納豆や豆腐などの加工食品も栄養が豊富です。
・海藻 水溶性食物繊維が豊富です。酢の物やサラダ、味噌汁の具材などになります。
減らすべき食品
・肉 赤身の部分は栄養が豊富なので、それ以外の部分、また肉の加工品なども減らします。
・卵、魚卵など コレステロールが多くなるため、なるべく量を減らすようにしましょう。
・糖質の多いもの 甘いお菓子や果物、バターを使った料理などもなるべく減らしていきましょう。
DASH食をおこなうにあたっての注意
控えた方がいい食品は、絶対に食べてはいけないというものではなく、できればだんだんに減らしていったほうがいいというものです。体を動かすためには、たんぱく質や脂質、糖質も必要です。全く食べないことは逆に健康を損なうことにつながります。
これ以外にも、DASH食をする際に注意したいことがあります。
野菜はできるだけ多めに食べる
摂取する量としては、1日500gを目標としましょう。ただし食べるのが難しい場合は、野菜ジュースにしてもいいでしょう。ただし市販の野菜ジュースには糖分が含まれますのでやめておきましょう。
ナッツやゴマ類を取り入れる
野菜だけでなく、ナッツやゴマにもビタミンやミネラルが豊富です。おやつにしたり、ご飯やサラダに混ぜたりして取り入れましょう。
調理法を工夫する
肉や魚は、調味料や調理法を工夫しましょう。蒸したりグリルにすると、余分な脂を落とすことができます。また味付けは塩を使い、こってりしたソースやたれは控えるようにしましょう。
これらのDASH食に加え、食事をする際には野菜など食物繊維の豊富なものから食べ、最後に肉やご飯を食べるようにしましょう。特に汁物を最初に食べて体を温めることも、血行を良くすることにつながります。無理な制限をせず血圧を下げていくようにしていくことも大切です。