頭の中に話したい言葉はしっかりあるのに、いざ口に出そうとすると言葉に詰まる、スムーズに言葉が出てこない、どもってしまう……、その正体はもしかすると吃音症(きつおんしょう)かもしれません。
吃音症には様々なタイプがあり、症状の重さも人それぞれです。もちろん治療は可能ですが、上手くしゃべれないことで会話を避けたり、逆に無理に話そうとしても治るものではありません。
吃音症の様々な症状や原因、改善方法、日常生活の中で気をつけるべきちょっとしたポイントなど、なかなか周囲に理解されにくく一人で抱えてしまいがちな吃音症について詳しく解説します。
「吃音症(きつおんしょう)」とは?
吃音症(きつおんしょう)とは、話したい言葉がスムーズに出てこなかったり、第一声がなかなか出せなかったり、同じ言葉を連続で出してしまうなど、いわゆる「どもる」状態になってしまう病気です。
欧米などには発達障害認定している国もあり、日本でも健康保険適応で治療を受けることができます。
多くの場合、吃音症は2~5歳の幼児期に出始めます。ほとんどは成長に従って症状が改善し、大人になるまでには改善しますが、中には大人になっても症状が続いている人もいらっしゃいます。
有病率は人口の約1%ほどとされており、はっきりとした原因はわかっていませんが女性よりも男性の方が有病率が高くなっています。
著名人の中にも吃音症・過去に吃音症だった人は多く、
・田中角栄さん(政治家)
・小倉智昭さん(フリーアナウンサー)
・こおろぎさとみさん(声優)
・二代目・三遊亭円歌さん(落語家)
・スキャットマン・ジョンさん(歌手)
・マリリン・モンローさん(女優)
など、「話すこと」が重要な職業の人の中にも、吃音症を克服した方は大勢います。
「英国王のスピーチ」という映画でも取り上げられたことで、イギリス国王・ジョージ6世が吃音症であったことも有名になりましたね。
しかし、吃音症はまだまだ世間的によく知られた病気というわけではなく、スムーズに話せないことで嘲笑を受けて苦しんだり、自分がどもってしまうことが気になって人とのコミュニケーションが取れなくなってしまう人も少なくありません。
吃音を自覚するとますます言葉が出てこないという悪循環に陥りやすく、結果として対人恐怖症、うつ病や引きこもりなどの二次障害が出てしまったり、最悪の場合、吃音を苦にしての自殺を引き起こしてしまうことさえあります。
「吃音症(きつおんしょう)」の症状や特徴
「吃音症」と一口に言っても、「どのような状態で言葉が出てこないのか」や「どのように言葉が出ないのか」といった症状は人それぞれです。
症状は大きく「連声型(連発、連続型)」「伸発型」「難発型(無声型、無音型)」の3つに分類され、段階的に症状が進むとされています。
連声型(連発、連続型)
「こ、こ、こ、こん、こんにちは」
のように、言葉の一部を連続して発してしまう状態。
伸発型
「おーーーはようございます」
のように、最初の言葉を引き延ばして発してしまう状態。
難発型(無声型、無音型)
「お…………」
のように、最初の言葉から後が詰まって出てこない。
または、
「……っ……おはよう」
のように最初の言葉が詰まって上手く出てこない状態。
吃音の5つの段階
一般的に、吃音は次の5つの段階で進行します。
第一段階::難発
多くの場合、この状況では自覚がありません。
第二段階:連発
言葉の一部を連発するようになるものの、本人にはまだ自覚がないことが多いです。
第三段階:連発+伸発
連発を自覚しはじめ、次第に音が引き延ばされるようになります。
第四段階:難発+伸発
症状を強く自覚するようになり、言葉を引き延ばす時間が長くなったり、始まりの言葉が出にくくなったりします。
瞬きをしたり目を擦ったり、手足を振ったり足踏みをするなどといった「随伴行動」が現れることもあります。
第五段階:連発+伸発+難発
吃音を気にするがあまりに、どもりそうな言葉や場面を避けるようになったり、人とおしゃべりすること自体や人付き合いを避けるようになります。
吃音症の原因は何?
吃音症の原因としては、様々な要因が影響しあって発症するものと考えられていますが、まだはっきりとしたことは解明されていません。
中には「親の育て方が悪いから」などという人もいらっしゃいますが、それはまったくの的外れです。
脳科学的に、遺伝学的に、吃音症の原因を究明するための研究が進められており、どちらも一定の成果を上げてはいます。しかし、脳機能障害や遺伝によって必ずしも吃音になるというわけではなく、次のような要因がきっかけとなって発症していることが多いです。
心理的ストレス
子どもの場合、過度の不安や緊張などの心理的ストレスで吃音になりやすくなることがわかっています。
たとえば、厳格すぎるしつけや過度のプレッシャー、忙し過ぎる生活、いじめやどもってしまうことを周囲から笑われてしまった経験などによる心理的ストレスによって吃音が現れることがあり、左利きを右利きに無理矢理矯正されたことで脳に負担がかかり吃音になってしまった事例も少なくありません。
環境の問題
具体的にどのような環境が要因になるかということはまだ不明な点も多いのですが、例えば子どもが言語機能が未発達であるにもかかわらず発話環境が複雑過ぎたり、どもってしまうことを叱られるといったことが影響しているとされています。
言語機能が未発達のうちはどもってしまうのも自然なことなのですが、それを叱られたり、言い直させられることで「どもる=悪いこと」と認識して隠そうとしてしまうために余計にどもってしまったり、話すことに恐怖を感じるようになって吃音が定着してしまうのです。
また、家庭内など身近に吃音者がいる場合、その人の話し方の影響を受けて吃音となってしまうケースや、吃音者の話し方を真似てからかっているうちに吃音が定着してしまうというケースもあります。
吃音症の改善法と日常で気を付けたいこと
子どもの場合は成長に従って吃音が改善されることが多いのですが、大人になってからも症状がある場合、「上手く話せない自分」や「それに対する周囲の否定的な反応」などの経験が根深くなっており、治療が難しくなると言われています。
しかし、まったく治療ができないわけではなく、スムーズに話をするためのテクニックを身につけたり、話をする前から感じる恐怖や不安を取り除く訓練を行うことで、症状を改善していくことができます。
ゆっくりと話す
吃音症の人は、どもってしまうことの恐怖から話を早く終わらせようと早口になってしまう傾向があります。逆に、元々早口で思考と言語機能がバランスが取れずに吃音症となってしまう人も少なくありません。
それは、言葉の一部を引き延ばしてしまう伸発型でも同じです。
そのため、吃音が出ているときほどゆっくり話すトレーニングを行い、習慣化していきましょう。
自分が話しているところを録音して聞いてみるのも、自分がいかに早口であったかを知る良い方法です。
抑揚をつけてメロディのように流れを意識して話す
吃音症の人の中には、「話すときにはどもるのに、歌は問題なく歌える」という経験のある方も多いのではないでしょうか。
それは、歌うときにはリズムやメロディに乗ることができているのに、話をするときには単調なリズムになってしまうことが原因です。
普段話をするときにも、歌うときのように抑揚をつけて言葉の流れを意識して話すようにすると、吃音が出にくくなります。
言いやすい言葉に置き換えるのをやめる
特に難発型の吃音症の場合、言いやすい言葉と言いづらい言葉があり、どもってしまうのを誤摩化すために言いづらい言葉を避けて、違う単語に置き換えることで相手に言いたいことを察してもらおうとすることが習慣化している場合があります。
しかしそれは苦手な単語を増やしてしまう悪癖であり、置き換えることで吃音が治ることはありません。
ゆっくりでも良いので苦手な言葉を声に出すトレーニングを繰り返し、少しずつ言いやすい言葉を増やしていきましょう。
また、「自分の悪いところを治そう」と悪い部分を意識するのではなく、「今よりもっと良い会話をしよう」とポジティブな心構えをすることも心理的な負担が減り、吃音の改善にも効果が期待できます。
吃音症であることをオープンにする
もちろん、いつでも誰にでもオープンにするというのは難しいことだと思いますが、吃音は隠そうとすればするほど症状が悪化してしまうものですので、吃音であることをオープンにして周囲からの理解を得ることは大切です。
病院を受診する
自分の努力ではどうにもできない場合や、どのようにすれば吃音が改善するのかがわからない場合、病院を受診するのも手です。
吃音症の診療科目は特に決まっていませんが、耳鼻咽喉科や心療内科・精神科、リハビリテーション科などで診察をしている病院が多いです。
ただし、どの病院でも該当のかであれば治療を行っているというわけではなく、科によって薬物療法が中心であったり、トレーニングが中心であったりと治療方法も異なります。
まずはホームページを確認したり電話で問い合わせるなどして吃音症の診察・治療ができるのかどうかを確認するとともに、自分に合った病院を探す必要があります。
吃音症は、まだまだ世間の理解が不足している病気である上に、吃音症者間でも「吃音は恥ずかしい/恥ずかしくない」「吃音は努力で治る・治した/努力ではどうにもならない・ならなかった」など考え方の違いや重度の違いから対立が生まれやすい厄介なものです。
周囲の吃音者や非吃音者と比較するのではなく、自分がどうありたいかを考え、自分にできることをすることが、最も健全で吃音の改善にも大切なことです。
ゆっくりと話したり、抑揚を付けて流れを意識する、苦手な言葉の練習をするなどトレーニングを行ったり、時には病院の力を借りて、よりスムーズな会話ができる自分を目指していきましょう。